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2009年8月01日更新

キシラナーゼの構造

 キシリトール入りのお菓子は普通にお店で見かけるようになりました。このキシリトールと関係がある分子が植物の細胞壁のおもな構成成分であるキシランです。キシランは植物にとっては、自分自身のからだをかたち作っている重要な分子ですが、植物にたかっているバクテリアやカビから見ると、キシランは大切な炭素源(栄養源)です。植物に生えているカビ(例えばキノコ)は、植物の細胞壁を少々分解してキシランを手に入れ、キシランをさらに分解して得られる炭素を利用して成長しています。そのため、カビはいろいろな種類のキシラン分解酵素(キシラナーゼ:英語ではザイラネイス)を持っています。これらのキシラナーゼを分類する研究が古くからすすめられており、分類グループにはF/10とかG/11などと名前がつけられています。

 F/10に分類されるキシラナーゼは2つのドメインから構成されています。キシランとくっつく役割を果たすドメインとキシランを分解する役割を果たすドメインです。キシランとくっつく役割を果たすドメインのかたちはまだわかっていませんが、キシランを分解する役割をはたすドメインのかたちはすでにわかっています。タンパク質は鎖状分子ですので、コンピュータグラフィックスをつかって、鎖が空間をどのように走っているかを表現することができます(下図)。鎖の流れを追いかけてみると、下図はビア樽を上から見たようなかたちをしていることがわかります。真ん中の穴が空いている部分が樽の内部であり、外側を囲むαヘリックス群が樽の外壁を構成しているように見えないこともありません。では、このかたちのどの部分にキシランを分解する役割が担われているのでしょうか?

 図は、1980年代後半から2000年代前半の名古屋大学理学部生物学科にあった郷通子研究室で研究を展開した、タンパク質のモジュール構造解析にしたがってキシラナーゼを色分けしています。カビを含む真核生物では、タンパク質をコードする遺伝子がイントロンとよばれる部分で分断されています。・真核生物における遺伝子からのタンパク質製造過程では、遺伝子が転写されたあとに、イントロンが切り落とされ、残った部分(エクソン)がつながって、それから翻訳されてタンパク質になります。キシラナーゼの場合は、イントロンが存在する位置の多くが、モジュールの境界に対応しており、その対応関係が偶然とは考えにくい(統計的に有意である)ことを示しました。モジュール1〜2個をコードする部分が遺伝子ではまとまっていて、それらがイントロンで分断されているわけです。図をよく見ていると、αヘリックスβストランドを末端にもっているモジュールが交互あちらこちらに登場していることがわかります。

 ところがよく見てみると、時々変なかたちをしたモジュールが見受けられます。タコのようなかたちをしたオレンジ色のモジュール(M4)とか、輪っかのような赤いモジュール(M7)、鍵穴のできそこないのような白いモジュール(M10)などです。これらのモジュールにキシランがくっついた後に、キシランが分解されることがわかっています。変なかたちをしていることと、キシランを分解する役割を担っていることに関係があるのかどうかはわかりません。しかし考える価値はありそうな関係だと思っています。タンパク質とキシランを含む糖分子との相互作用はこれからますます大切になる問題です。由良研では、この問題は純粋な分子生物学や産業応用などに広がっていくおもしろい問題と捉えており、これからも発展させていこうと考えています。

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