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2009年7月26日更新

タンパク質にはモジュールの繰り返し構造が見られる

 タンパク質分子に関する教科書を開くと、タンパク質の階層構造の記述が必ずあります。アミノ酸配列を一次構造とよびます。一次構造上近くに存在するアミノ酸残基が相互作用してできあがるαヘリックスやβストランドおよびβターンを二次構造とよびます。二次構造が相互作用してできあがるタンパク質の全体構造を三次構造とよびます。三次構造どうしが相互作用してできあがるタンパク質の複合体構造のことを四次構造とよびます。このような呼び方はデンマークのLinderstrom-Lang博士によって導入されました。大きなタンパク質はドメイン構造になっていることがわかってきていますので、三次構造はドメインに対応し、小さなタンパク質はひとつのドメインからできているとみなす必要があるかもしれませんが、60年ほど前に導入されたタンパク質の階層構造性は今でも普通に使われている概念です(時々、「一次配列」という言葉を耳にしますが、これは「一次構造」と「アミノ酸配列」および数学用語がごっちゃになってしまった誤りです)。

 1980年代後半から2000年代前半の名古屋大学理学部生物学科にあった郷通子研究室では、タンパク質の階層構造性に別の見方があることを見いだしていました。一次構造上近くに存在するアミノ酸残基が相互作用することでαヘリックスやβストランドができるのはその通りですが、一次構造を形成するすべてのアミノ酸残基がαヘリックスとβストランドおよびβターンを形成するわけではありません。ループとよばれる部分も存在します。ところが二次構造という分類ではループが無視されています。二次構造をつなぐ構造が定まらないところのように捉えられています。しかしすべてのループがふらふらしているという証拠はなく(もちろんふらふらしているループもありますが)、αヘリックスとかβストランドとかは、規則的な構造のために科学者が観測しやすいから(目立つから)そのように注目されているだけで、タンパク質に取っては、どれも同じアミノ酸残基群です。そこで、一次構造上近くに存在すアミノ酸残基が相互作用することでできる構造で、なおかつ一次構造を余すところなく分割できる構造単位としてモジュールをタンパク質の階層構造性に導入し、タンパク質の構造がどのようになっているのかを理論解析しました。由良敬教授は郷研の学生として、モジュール構造の比較分類を行いました。

 モジュールの構造をさまざまなタンパク質で比較すると、同じかたちをしたモジュールが全然ちがうタンパク質に登場することがわかりました。アミノ酸配列が似ていたり、アミノ酸配列は違っているのですが立体的なかたちが似ていたりさまざまな場合があります。全然違うタンパク質にある同じモジュールが、同じような化学的役割をしている場合も見つかりました。DNAのリン酸骨格と相互作用する働きを務めるモジュールが存在し、全然違うタンパク質にありながら、それらのモジュールはそっくりの様式でDNAリン酸骨格と水素結合をしていました。全然異なるタンパク質がDNAと相互作用をする役割を果たすために、このモジュールを取り込んだようにも見えます。これらのタンパク質が実際にできあがった過程で何が起こったのかを知るのは難しいことでしょうが、これからタンパク質を人工的に設計する場合には、参考になる考え方かもしれません。

 ひとつのタンパク質のなかで、同じかたちをしたモジュールが何回も使われていることもわかりました。ファージがもっている小さなDNA結合タンパク質が5つのモジュールに分割できましたが、そのうちの3つは立体的なかたちがそっくりでした。アミノ酸配列も統計的に有意に似ている組も存在しました。これらのことは何を意味しているのでしょうか?このタンパク質ができあがるときに、まったく同じモジュールが(正確には、モジュールをコードする遺伝子が)重複したのかもしれません。このようにしてタンパク質を構築するのは、効率がよさそうです。同じものを増やしていくことは簡単に思えます。この場合も過去に何が起こったのかを推定するのは大変難しいことです。しかし新しいタンパク質を作り出していく時に役立つ考え方になりそうです。実際に重複によるタンパク質デザインは試みられています

 モジュールの組合せと繰り返しによってドメインができあがります。ドメインの組合せと繰り返しによってタンパク質の全体構造ができあがっています。そのようにしてできたタンパク質が、それ自身または別のタンパク質と相互作用して四次構造ができあがり、それ自身または別の四次構造の相互作用によって、より高次の構造ができあがっている様子です。どうやらどの階層においても組合せと繰り返しが大切な様子です。

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