> 研究一覧 >大きなタンパク質には繰り返し構造がある
2009年7月25日更新

大きなタンパク質には繰り返し構造がある

 多くのタンパク質のかたちを見ていると、タンパク質はある程度の大きさをもつかたまりに分割できることがわかります。そのかたまりのことをドメインと呼んでいます。ひとつのドメインはアミノ酸残基150個程度でできているのが一般的です。大きなタンパク質の場合には、ドメインが複数個つながったかたちをしています。大きなタンパク質のかたちが、ひとつの大きなかたまりになっている場合は見たことがありません。ときどき、長い針状の構造になっているタンパク質を見かけますが、そのような場合でも内部に何らかの単位構造を持っていて、その単位構造がが繰り返されて針状の構造を形成しています。

 大きなタンパク質をかたち作るためには、たくさんのドメインが必要になります。1000残基のタンパク質には、単純には6〜7個のドメインが必要です。ドメインの大きさは、アミノ酸残基150個程度に限定されているわけではありませんので、もっと多くのあるいはもっと少ないドメインによって1000残基のタンパク質がかたち作られることもしばしばあります。このような大きなタンパク質をかたち作る一群のドメインは、お互いにどのような関係にあるのでしょうか?まったく起源がちがうドメインを寄せ集めて大きなタンパク質を作っているのでしょうか?それとも似たドメインが使われているのでしょうか?

 上の質問に対して一般的なこたえはまだわかっていません。しかしいろいろなデータを眺めていると、大きなタンパク質をかたち作る一群のドメインは似ていることがわかってきています。眺めるといっても漠然とタンパク質のアミノ酸配列や立体構造を見ているだけではわかりません。統計的手法を少々利用しなければなりません。由良敬教授が以前所属していた研究所では、大阪市立大学(当時)の宮田真先生が研究されているマイコプラズマ・モービレがもつ巨大タンパク質Gli349(アミノ酸残基3183個)の解析を、奈良先端科学技術大学院大学の学生と一緒に行ったことがあります。最初はアミノ酸残基の頻度分布異常の解析から始まり、その後アミノ酸配列を印刷して眺めているうちに繰り返しに気がつき、最終的には下の図にあるようなアミノ酸配列の繰り返し構造があることがわかりました。まるで暗号解読のようなことを実行した結果です。

 アミノ酸配列の繰り返しパターンは、一目瞭然というわけではありませんでしたので、我々のような専門集団でないとわからなかった様子です。結局は、Gli349の全体におよぶ繰り返し構造があることがわかりました。Gli349のおおざっぱなかたち(外形)は電子顕微鏡による測定でわかっていましたので、ちょっと無理をしてその外形に上記解析から推定されるドメイン構造をあてはめて、全体の構造も推定しました。下の図でアルファベットのはいっている丸がひとつのドメインです。きっとこんなかたちをしているだろうと想像しています。このようなドメイン解析をすると、どの部分がタンパク質の柱になっており、どの部分がちょうつがいになっているのかが予想できます。その予想にもとづいて、新しい生物学的な実験を進めていくことができ、タンパク質の機能を調べることができるわけです。

 大きなタンパク質が一般的に、類似ドメインの繰り返しでできているのかどうかを知るには、もっといろいろなタンパク質を調べる必要があります。由良研究室では、機会があるごとに大きなタンパク質の解析を少しずつ行っています。多くの場合は、実験家からの相談で解析をスタートしています。


English
お問い合わせ