総合生命科学

「総合生命科学」では生命科学とその関連分野において、最新の研究動向を概観することと、どのような生命情報がどのように生かされているのかを解説することを目的としたオムニバス形式の講義である。この講義により、生命情報を総合的に理解することをめざす。ライフサイエンス専攻、理学専攻に所属する複数の教員がおもに担当する。

講義場所:
人間文化創成科学研究科・全学共用研究棟4F 405室
ただし、第4回10月22日(金)のみ理学部2号館 405室で行われる。

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総合生命科学 タイトル 講師
 1 10月1日(金) 1,2限 生命情報学の歴史 由良 敬
 2 10月8日(金) 1,2限 植物生理・生化学と生命情報 作田正明
 3 10月15日(金) 1,2限 人類化石が持つ多種多様な生命・生活情報 松浦秀治
 4 10月22日(金) 1,2限 X染色体の不活性化と遺伝子刷りこみ(理-U405) 岡村浩司
 5 10月29日(金) 1,2限 脂質メタボローム解析とその応用 小林哲幸
 6 11月5日(金) 1,2限 遺伝子発現解析〜遺伝子ネットワーク推定〜 油谷幸代
 7 11月12日(金) 1,2限 糖鎖研究における生命情報学の活用 小川温子
 8 11月19日(金) 1,2限 データ解析を中心とした生命情報の進展 瀬々 潤
 9 11月26日(金) 1,2限 分子系統樹を読み解く 近藤るみ
10 12月3日(金) 1,2限 藻類の多様化と生命情報 嶌田 智
11 12月10日(金) 1,2限 糖鎖科学への計算化学からのアプローチ 鷹野景子
12 12月17日(金) 1,2限 ゲノム配列から読み解くタンパク質機能 諏訪牧子

上記講義に加え、今年度開催される「バイオインフォマティクスへの招待」セミナーに3回以上出席すること。

第1回 10月1日

担  当: 由良 敬(ライフサイエンス専攻・生命情報学教育研究センター)
タイトル: 生命情報学の歴史
概  要: 生命情報学は新しい学問分野と思われているが、生命情報学の歴史は分子生物学の歴史と同程度に古い。20世紀半ばに分子生物学が勃興し、生物をその構成分子から理解する動きが起こった。それとほぼ同時に、明らかになってきたデータをどのように解釈するのか、またどのようにすれば高解像度のデータを得ることができるのかの理論構築が必要となり、ここに現在の生命情報学の起源がある。20世紀後半には、さまざまなデータが大量に得られるようになったとともに、高速のコンピュータが出現し、現在みられる生命情報学の発展がもたらされることとなった。生命情報学の歴史を紹介することで、生命情報学が目指していることの一端を概観する。

第2回 10月8日

担  当: 作田正明(ライフサイエンス専攻)
タイトル: 植物生理・生化学と生命情報
概  要: 植物では、シロイヌナズナ、イネ、ポプラに続き、ブドウのゲノム解析が完了し、アルファルファ、ミヤコグサ等のマメ科植物のゲノムに関しても解読がほぼ終了している。これらのゲノム情報に加え、共発現遺伝子、植物代謝物データベース等を用いた植物生理・生化学研究の実際について解説する。特に今回は、植物の二次代謝産物の多様性に注目した、分子進化研究の実際について、最近の知見を交えながら紹介する。

第3回 10月15日

担  当: 松浦秀治(ライフサイエンス専攻)
タイトル: 人類化石が持つ多種多様な生命・生活情報
概  要: 骨は生きている。成長し、血も神経も通っている。骨は筋肉が付着する運動装置であり、筋肉の働きが骨を修飾し、骨の形に反映する。また、マクロ・ミクロの様々な環境因子の影響が骨にあらわれる。講義では、「化石となった、ヒトの生」とも言える人類化石から引き出すことができる多種多様な「生命・生活情報」について紹介する。

第4回 10月22日

担  当: 岡村浩司(生命情報学教育研究センター)
タイトル: X染色体の不活性化と遺伝子刷りこみ
概  要: ゲノムDNAのメチル化およびヒストン修飾に代表されるエピジェネティクスは、発生段階や細胞の種類によって発現する、あるいは発現が抑えられる遺伝子を制御する役割を担っている。再生医療の分野で注目されているiPS細胞は、分化した体細胞のエピジェネティックな状態を未分化な状態に戻す、つまりリプログラミングすることで樹立される。本講義では、哺乳類エピジェネティクス研究の原動力となったX染色体の不活性化とゲノム刷り込み(ゲノムインプリンティング)を概観し、エピジェネティクスによる遺伝子発現制御の分子的基礎を理解することを目指す。

第5回 10月29日

担  当: 小林哲幸(ライフサイエンス専攻)
タイトル: 脂質メタボローム解析とその応用
概  要: 「脂質」は生体にとって重要なエネルギー源であるとともに、様々な生理活性分子として機能して各種病態にも深く関わっていることが知られている。 しかし、微量で不安定、かつ多様な構造をもつ脂質分子群の解析は容易ではなく、病態との関係は不明の点が多い。近年、各種病態を分子レベルで解析する上で、マウスやラットのゲノム、トランスクリプトームやプロテオームの解析から、多くの有用な知見が得られてきた。また最近では、質量分析を用いて代謝産物を網羅的に解析するメタボローム解析技術が進歩し、脂質分子についても解析することが可能になってきた。本講義では、脂質メタボローム解析の基本を解説した後、病態モデルラットやトランスジェニックマウス、およびノックアウトマ ウスを用いた応用研究について紹介する。

第6回 11月5日

担  当: 油谷幸代(産業技術総合研究所 生命情報工学研究センター)
タイトル: 遺伝子発現解析?遺伝子ネットワーク推定?
概  要: 本講義は、マイクロアレイデータからの遺伝子発現解析の全体像の理解を目的し、実験的手法とアレイインフォマティクスによる解析研究の双方について概略を解説する。特に、発現プロファイルデータを数理的に解析し、生体細胞で働く遺伝子間の関連性を推定する遺伝子ネットワーク推定手法について詳細に説明する。

第7回 11月12日

担  当: 小川温子(理学専攻、ライフサイエンス専攻兼担)
タイトル: 糖鎖研究における生命情報学の活用
概  要: 糖鎖は細胞表面や組織中、体液中、個体間、さらに細胞内においても、様々な分子との相互作用を介して、活性調節、送達マーカー、情報伝達等の機能を果たし ているため、新たな情報分子として近年非常に注目されている。最近明らかになった糖鎖機能発現の分子機構を紹介するとともに、機能はまだ解明されていなくても生命における重要性が示唆される研究例や、糖鎖情報解読に向けての新たな研究手法を紹介する。研究推進に有益と思われる、抗体、レクチン、遺伝子、糖鎖関連マイクロアレイをはじめとする研究リソースとデータベースや活用状況についても紹介する。

第8回 11月19日

担  当: 瀬々 潤 (理学専攻)
タイトル: データ解析を中心とした生命情報の進展
概  要: 次世代シークエンサやマイクロアレイに代表される機器の進歩により、大量の生命活動に関するデータが産出されている。また、文献情報にも大量の知識が蓄積されるようになってきた。これらの情報を有効に活用し生命の理解へと迫るために必要となるのがデータ解析技術である。近年では試験管などを利用する実験をウエットと言うのに対し、計算機を利用したデータ解析はドライと呼ばれる程、重要性が増している。本授業では、このデータ解析技術に関し、現代生命科学に於ける需要を示し、また、実際の研究例を示すことでデータ解析が生命科学の有用な手法となる事を紹介する。

第9回 11月26日

担  当: 近藤るみ(ライフサイエンス専攻)
タイトル: 分子系統樹を読み解く
概  要: 分子系統樹からどのような情報が読み取れるのだろうか。様々な系統樹の例を用いて、分子系統解析の目的と手法、分子系統樹の読み方を紹介する。また、目的に応じた分子系統樹を作成するためにどのような注意が必要か解説する。

第10回 12月03日

担  当: 嶌田 智(ライフサイエンス専攻)
タイトル: 藻類の多様化と生命情報
概  要: 多種多様な生物種のゲノム配列情報を利用することで、生物系統を明らかにしてきた分子系統進化学の手法を解説する。また、様々な系統に存在する「藻類」誕生のメカニズムや、研究室で解析を進めている種分化研究についても紹介する。

第11回 12月10日

担  当: 鷹野景子(理学専攻)
タイトル: 糖鎖科学への計算化学からのアプローチ
概  要: 生命情報を担う糖鎖分子の高次構造や機能、分子認識機構の解明は、生命科学における重要課題の一つである。この課題に立ち向かうための計算化学的手法を簡単に紹介し、最近の研究成果と今後の展望 について述べる。

第12回 12月17日

担  当: 諏訪牧子(産業技術総合研究所 生命情報工学研究センター)
タイトル: ゲノム配列から読み解くタンパク質機能
概  要: 配列からの遺伝子発見や、機能同定などに関連するバイオインフォマテイクス手法を用いて、ゲノムワイドの視点からタンパク質の構造・機能、相互作用情報を俯瞰的に解析し、それらの生み出す機能メカニズムの理解を目指した内容を紹介します。具体例としては、細胞表面の膜に密集し外界の刺激を細胞質側に伝達するシグナル情報伝達の制御スイッチとして働く膜受容体に焦点を当ててお話します。