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2009年6月14日更新

原生生物のタンパク質翻訳終結因子は他生物種の因子とは異なっているらしい

 DNAには、タンパク質を構成するアミノ酸の並び順が暗号化されて書き込まれています。この暗号化のルールは1960年代に実験的にすべてが明らかになりました。下の図がそのまとめです。この図をコドン表とよびます。下の図はRNAで書かれていますので、U(ウラシル)が現れていますが、DNAで考えるときはUをT(チミン)だと思って、図を見てください。DNAにTTT(下の図ではUUU)と書いてあれば、その部分はフェニルアラニン(Phe)をコードしています。DNAの3文字がアミノ酸1個に対応しており、3文字はほとんどの場合オーバラップしていないこともわかっています。ですからTTTTTTならばPhe-Phe(フェニルアラニン2個)となります。下の表で灰色になっているOchre、AmberとOpalは暗号変換終了(終止コドン)を意味します。TAA、TAG、またはTGA が現れたら終了です。

 生体中では、DNAがメッセンジャーRNAに転写され、メッセンジャーRNAがリボソームに輸送されて、この暗号解読が行われます。いろいろなアミン酸を持っているたくさんのトランスファーRNAがメッセンジャーRNAのコドンを見ながら、適確なアミノ酸をリボソームに渡してタンパク質ができています。ただし終止コドンはトランスファーRNAではなく翻訳終結因子とよばれるタンパク質によって見極められています。終結因子が終わりを宣言するのです。

 このコドン表は、地球上の全生物で共通でしょうか?調べられているほとんどの生物で共通です。しかし例外があります。まったく異なるコドン表を使っている生物は見つかっていませんが、ちょっとだけ違っているコドン表を使っている生物は結構います。ヒトのミトコンドリアが使っているコドン表も少しだけ違っています。AGAが終止コドンになっています。池にいるミドリムシなどを含む原生生物では、TGA(UGA)が終止コドンではなくトリプトファン(Trp)になっています。いったい何でこんなことになっているのでしょうか?どのような仕組みでコドン表が変化したのでしょうか?この問題は、コドン表がどのようにして成立したのかにもかかわる重要な疑問です。

 この疑問を解くために、いろいろな原生生物の終止コドンを調べると同時に、いろいろな原生生物の終結因子(タンパク質)のアミノ酸配列をどんどん調べました。原生生物では、本来終止コドンであるコドンがアミノ酸をコードするようになっている場合が多いわけですから、終結因子がその終止コドンを認識できなくなり、新たにトランスファーRNAが終止コドンを認識し始めて、現代に至っているのだと考えられます。そうするとそれら原生生物の終結因子は、普通の生物の終結因子とどこかが違っているはずです。普通の終結因子は3個の終止コドン(TAA,TAG,TGA)を認識することができるわけですが、ある種の原生生物の終結因子は、2個だけしか認識できないわけなので。

 さまざまの原生生物終結因子のアミノ酸配列を決定し、ヒトの終結因子の三次元構造をもとにして、原生生物終結因子の形を予測しました。その形をもとにして、どの部分にメッセンジャーRNAが結合するかを自分たちで開発した構造バイオインフォマティクスの手法で予測すると共に、ヒトの終結因子のメッセンジャーRNA結合部分も予測しました。その結果、原生生物終結因子はヒト終結因子とは異なる部分でメッセンジャーRNAと相互作用しているかもしれないことがわかりました。そのために3個の終止コドンすべてを認識することができなくなった様子です。しかしまだ詳細はわかっていません。この疑問への解答は、現在ベトナム科学技術アカデミーの研究員であるにキム・ワンさんが、がんばって追求しています。

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