> 研究一覧 > RNA結合タンパク質のどこにRNAが結合するのかを予測する
2009年6月6日更新

RNA結合タンパク質のどこにRNAが結合するのかを予測する

 DNAは遺伝情報を蓄え伝える物質、タンパク質は実際に生体を構成し様々な反応を助ける物質、そしてRNAはDNAの情報をタンパク質に変換する補助的物質という見方が長い間常識とされていました。しかし近年の分子生物学研究の発展により、RNAがとても重要なはたらきをしていることがどんどん明らかになってきています。DNAではなくRNAに遺伝情報を蓄積する細菌が存在しますし、RNAは触媒活性もあります。最初の生命はRNAを基本分子としていたとも考えられています。初期地球環境でRNAが自然に現れるのは難しいと言われていましたが、2009年のNatureに掲載された研究 (Powner, Gerland Sutherland (2009) Nature 459, 239-242)で、その通説も覆りそうです。時代はRNAです。

 しかしRNAはRNA単独で働いているわけではありません。多くのRNA分子はタンパク質と協力して機能を果たしている様子です。細胞内でタンパク質を合成するリボソームは、合成反応の中心はRNAで構築されていますが、タンパク質なしでは反応が進みません。転写されたばかりのメッセンジャーRNAを加工して、タンパク質のアミノ酸配列情報を正しくコードさせるためのスプライセオソームやエディトソームにもさまざまなタンパク質とRNAの相互作用がありますし、メッセンジャーRNAを核から細胞質に輸送する分子もタンパク質です。ある決まったRNAを切断するタンパク質のおかげで、外部から侵入する異物RNAを排除することもできています。ヒトゲノムにはRNAと結合するタンパク質が少なくとも2500個はあるともいわれています。

 それでは、これらRNAとタンパク質はどのようにして活躍しているのでしょうか?この疑問にこたえるには、RNA単独およびRNAとタンパク質が一緒になっている時の三次元構造を明らかにし、どのような原子配置によってどのようなことが起き、その結果として細胞で何が起こるのかを明らかにしていけばよいです。ところがRNAの原子分解能立体構造およびRNAとタンパク質の複合体構造をX線結晶解析の方法で測定することは容易ではありません。現在までにかなりの観測結果が得られていますが、全体像にはまだまだ届きません。そこで、構造バイオインフォマティクスの手法で構造を推定し、その予測構造にもとづいて、機能などを推定することが重要になります。

 由良研究室では、RNAとタンパク質の複合体構造と機能の推定を目指して、まずはRNAに結合するとわかっているタンパク質のどこの部分にRNAが相互作用するのかを推定する方法の開発を開始しました。RNAに結合するタンパク質単体の立体構造から結合部位を推定します。今までの研究のおかげで、タンパク質とRNAの複合体の原子分解能構造が100個弱わかっています。それらを見ているとわかることは、タンパク質表面の大きな正電荷をもつ部分とRNA分子が相互作用することです。RNAは大きな負の電荷をもつ分子ですから、このことは当然なのですが、タンパク質単体の表面で正電荷を帯びているところはたくさんありますし、細胞内の様々な環境に対応して、タンパク質の電荷分布を計算するのはなかなかうまくいきません。そこで、難しい物理化学的なことはしばらく横に置いておいて、RNA分子との界面にどのようなアミノ酸残基種が現れるかを単純に数え上げ、頻度解析にもとづくエネルギー関数を利用して、界面部位を予測する方法を開発しました。

 開発した予測方法は、かなりよい精度を持っていることがわかりました。「この残基がきっと界面を形成します」と予測した残基のうちの80%は本当に界面を形成することがわかりました。ただ予測できない界面形成残基がまだまだたくさんあり、このようなアミノ酸残基も予測できるように、予測法を改良する必要があります。界面が予測できるようになったら、次はRNAとの複合体構造を推定できるようにし(RNAの構造を予測する必要もあります)、その構造にもとづいて機能がどのようにして実現されているかを見いだしていく必要があります。研究はまだ始まったばかりです。界面の予測方法は、開発の関与した3名の頭文字をとってKYGと名付け、ウェブで公開しています。

ここで開発した界面構成アミノ酸残基予測方法は、RNA界面だけではなく、他の界面に応用可能です。タンパク質とタンパク質がどこで相互作用するのか?タンパク質とドラッグはどこで相互作用するのかなどなどです。この方面への展開も研究室で少しずつ始まっています。

English
お問い合わせ