相互作用しているタンパク質の界面
細胞はその質量の70%ぐらいが水で、26%ぐらいがタンパク質やDNAなどの高分子、残りの4%ぐらいが脂肪やイオンです。細胞の中は、タンパク質などの高分子が密に詰まっています。タンパク質は、お互いにしっかりとくっついて細胞のかたちをたもつための構造になったり、細胞のおかれている環境に応じてくっつく相手を変えたりしています。つまり、お互いに作用し合うこと(相互作用)がタンパク質の大切な役割です。そのため、相互作用しているタンパク質がどのようなかたちをしているのかを観測する研究が世界中で進められています。
分子生物学の教科書を開くと、タンパク質は丸や四角で模式化されていて、相互作用はそれらの図形をくっつけることで示されています。タンパク質が丸や四角のように単純なかたちではないことは、誰もが知っています。しかし多くの方は、タンパク質が相互作用しているかたちを模式化された図形をもとに考えがちです。丸と丸ならば、タンパク質のくっついている面は点みたいに小さいですし、四角と四角ならば、タンパク質のくっついている面は、広くてたいらです。本当にそうなのでしょうか?相互作用面は原子のレベルではどうなっているのでしょうか?
このような疑問をもって、個々のタンパク質相互作用面を観測している研究者はたくさんいます。別々の研究者が個別の場合を調べてきた結果、相互作用面にはいろいろな場合があるなあということはわかってきましたが、それぞれの研究者の測定方法は違っているために全体像が見えてきません。全体的にはどのような傾向があるのでしょうか。そこで由良研では、英国東アングリア大学のスティーブン・ヘイワード先生と協力して、タンパク質が相互作用しているかたちのデータをたくさん集め、コンピュータ解析によって、どのような特徴があるのかを調べています。解析結果は、データベースDACSISにまとめて、インターネットに公開してます。
タンパク質相互作用面は、決して平らではないことがわかってきました。片方のタンパク質あるいは両方のタンパク質の、相互作用面をつくる部分のポリペプチド鎖が少しほどけて、相互作用する相手のタンパク質に食い込んでいます。左の図は細胞内で活躍している酵素です。白いタンパク質と灰色のタンパク質がお互いにくっついています。このかたちになって、酵素として働いています。中央に赤い部分と黄色い部分があります。灰色のタンパク質の一部分で白いタンパク質に食い込んでいるところを赤く塗りました。白いタンパク質の一部分で灰色のタンパク質に食い込んでいるところは、黄色く塗りました。タンパク質は、一般的には自分自身で丸まっています。しかしタンパク質界面では、このように相手に食い込む場合があることがわかりました。黄色や赤の部分の上下では、白と灰色がきれいに分かれています。いろいろなタンパク質で調べてみると、このように食い込んでいる部分が相互作用面の1/3程度をしめることがわかりました。
相互作用している時に相手に食い込んでいる部分は、タンパク質が単体の時には、どうなっているのでしょうか?相手に食い込む部分のアミノ酸組成を調べると、この部分はしっかりしたかたちをとらずにふらふらしている傾向にあることが推定されました。タンパク質単体の時は、ふらふらとしていて、相互作用する相手を見つけると相手と握手する部分のようです。本当にそのような振る舞いをしているのでしょうか?タンパク質どうしがくっつくときには、丸いかたまりがぶつかり合うわけではなく、手のような部分がお互いを確かめ合ってから相互作用するのでしょうか?この予想が本当かどうかは、実験とコンピュータシミュレーションによるこれからの研究で明らかにしていかないといけないことです。
発表論文:
Kei Yura, Steven Hayward (2009) The interwinding nature of protein-protein interfaces and its implication for protein complex formation. Bioinformatics, 25(23), 3108-3113.