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2009年7月7日更新

植物オルガネラ(ミトコンドリアと葉緑体)で起こっている遺伝暗号の動的改変

 植物の細胞には、光合成をつかさどる葉緑体とエネルギーをつくり出すミトコンドリアがあります。葉緑体とミトコンドリアは、もともとは独立に生きていたバクテリアを起源とする細胞内小器官(オルガネラ)です。その証拠のひとつとしてオルガネラは、独自の遺伝子をもっています。オルガネラの遺伝子がRNAに転写され、そのRNAをもとにしてタンパク質が翻訳されて、オルガネラそのものの形の一部となります。細胞の核にあるゲノムDNAからの転写翻訳とまったく同じことが起こっています。

 遺伝子を形作っている塩基3文字ずつが一つのアミノ酸に対応しているので、塩基配列を見るとどのようなアミノ酸の並びから構成されるタンパク質ができあがってくるかがわかります。ところが不思議なことに陸上植物のオルガネラでは、遺伝子からわかるアミノ酸の並びと、実際にできあがったタンパク質のアミノ酸の並びが、しばしば異なっていることが1980年代後半からわかってきました。遺伝子が転写された後に細胞内で積極的にRNAが「編集」されていることがわかってきました(RNAエディティング)。編集はいいかげんに起こっているわけではなく、ちゃんと決められた場所(間違っている場所??)が編集されます。なぜこんな一見無駄なことをしているのでしょうか?RNAでわざわざ編集しなくても、遺伝子を修正しておけばすむことに思えます。また、どうやって編集は行われているのでしょうか?編集はかなり正確に行われている様子です。この謎を解く研究が世界中で進められていますが、どちらも答えはわかってません。

 そこでお茶大由良研では、世界中で同定されているRNAエディティング部位の情報を国際核酸配列データベース(DDBJ)から集めてこつこつと整理して、データベース(RESPOS)を作成し公開しています。この大量データにもとづいて、RNAエディティング部位がタンパク質のどういう特徴と関連しているかを調べました。アミノ酸配列を見ているだけでは、特に特徴が見つかりませんでしたが、タンパク質の立体構造とRNAエディティング部位との関係を調べたところ、RNAエディティングによって変化するアミノ酸残基がタンパク質の内部(コアとよばれる部分)に偏在することがわかりました。

 タンパク質のコアの部分は、タンパク質が三次元的な形になるときに重要な部分です。この部分のアミノ酸がおかしくなってしまうと、ひどい場合には三次元構造を作れなくなります。RNAエディティングはタンパク質の構造形成に重要な部分を編集していることがわかりました。ではこの仕組みがいつから存在するのでしょうか?それはよくわかっていません。ただ由良研では、いろいろな事実から、植物オルガネラのRNAエディティングは植物が陸上にあがるころ(約4億年前)に登場したのだろうと考えています。海にいた植物が地上にあがろうとしたときは、地上には紫外線が降り注いでいて、とても危険な場所だったに違いありません。RNAエディティングはその危険から植物を守るための仕組みだったのではないかと考えています。この考え方が正しいかどうかは、これからの研究で明らかにしていきます。

発表論文:
Kei Yura, Sintawee Sulaiman, Yosuke Hatta, Masafumi Shionyu Mitiko Go (2009) RESOPS: a database for analyzing the correspondence of RNA editing sites to protein three-dimensional structures. Plant and Cell Physiology, in press.
由良 敬、郷 通子 (2009) 陸上植物オルガネラのRNA編集の役割. 生物物理, 49(5), 244-245.
Kei Yura, Mitiko Go (2008) Correlation between amino acid residues converted by RNA editing and functional residues in protein three-dimensional structures in plant organelles. BMC Plant Biology, 8, 79.

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